前立腺がん全摘後・放射線治療後の血尿
① 前立腺がん全摘術後の血尿、原因は?
前立腺がん全摘後に尿が赤くなることがあります。
血尿はびっくりしますよね。ただし血尿が、すべて問題あるわけではありません。
時期によって注意すべきことが変わります。下記、時期による血尿で解説いたします。
1)手術直後から約1か月以内の血尿
術直後は、まだ手術の影響があり血尿が出ることがあります。
そもそも、手術では膀胱の断端と尿道の断端を縫ってくっつけています。
その断端はそもそも傷なので出血がある場所となります。
吻合(ふんごう)することで、くっついていきますが多少出血することがあります。
この出血の多くは、自然に改善しますのでご安心ください。
ただし、膀胱側に出血すると膀胱内に血種(血の塊)ができて排尿困難をきたすことがあります。
よってしばらく血尿がある場合は、水分を十分摂取してください。
万が一、尿が出にくい時は血種が詰まることがありますのでその場合は、早めにご相談ください。
血尿だけであれば多くは問題ありませんのでご安心ください。
2)数か月から数年以降の血尿
手術からだいぶ時間が経過しても頻度は少ないですが血尿を認める場合があります。この場合は、手術の影響とそうでない場合があります。
一般的な血尿精査に準じて検査を行います。下記をご参考にしてください。
Q1)尿が赤い、どうしたらいい?血尿の原因について
一般的な血尿の原因以外に手術後なので、例えば手術時のクリップが膀胱内に迷入したり、吻合部に結石が出来たりすることによる血尿もあります。
また、術後PSA再発(採血上の再発)があった場合、追加で放射線治療を行うことがありますがその影響で、放射線性膀胱炎を起こし血尿を認めることもあります。
また、膀胱がんなどが前立腺がんに関係なく発生して血尿が出ることもあります。
このように手術後、時間が経過してからの血尿の原因はいろいろ考えられるため、まず泌尿器科を受診してください。
② 放射線治療後の血尿、原因は?
前立腺がんに対して、様々な放射線治療が行われています。放射線治療後も、全摘術後同様に血尿を認める場合があります。
今回も、治療後の時期による血尿を解説いたします。
1. 放射線治療、直後の血尿(直後から1か月間程度)
放射線治療直後の血尿は、一般的な外部照射ではまれです。
針を刺して線源(放射線のチップ)を埋め込む小線源治療(ブラキセラピー)や針を刺して中に線源を通す高線量率組織内照射(HDR)治療などでは、針を刺す影響で治療後数週間の間に血尿を認めることがあります。
これらの多くも自然と改善することが多いです。血尿を認める間はよく水分を摂取しましょう。
治療後、前立腺がむくんで排尿障害や感染症を起こした場合も血尿を認めることがります。
特に高熱を認める場合は、前立腺炎などの可能性がありますのですぐに、治療を行った病院を再診されることがベターです。
発熱、痛みなどを伴う血尿はご注意ください。
2. 放射線治療後、しばらく時間が経ってからの血尿(数か月から数年)
1)放射線性膀胱炎
放射線治療を受けしばらく経ってから血尿を認めた場合、原因の一つとして放射線性膀胱炎があります。
放射線性膀胱炎とは、膀胱粘膜が一部放射線の影響を受け出血をきたす病態です。
一般的には、治療後、半年以上から数年経過して血尿を認めます。
なぜ起こるのか?一定量の放射線が照射されると血管の内部の細胞がダメージを受けることで膀胱の粘膜に血液が届きにくくなります。
その結果として膀胱粘膜の血管が拡張し破綻しやすくなることにより、出血しやすくなります。
排便時いきむことや、ゴルフ・筋トレなど瞬発的に力が加わることで出血することが多いです。
持続的に血尿が続くのか、間欠的に血尿が続くのかにより治療方針が異なります。
下記のような治療を行う場合があります。
- 尿道カテーテル留置・持続膀胱洗浄
- 経尿道的な止血術(手術)
- 高気圧酸素治療(Hyperbaric oxygen therapy: HBO) など
高気圧酸素治療は、ランダム化比較試験も行われ有用性が報告されています。(Lancet Oncol, 20: 1602-1614 2019)
特別な装置が必要なため、本邦においても限られた施設で行われています。
出血の程度、状況により治療方針が異なりますので、それぞれの施設でよくご相談ください。
2)膀胱がん
放射線治療後に時間が経過してから血尿を認めた場合、膀胱がんなどの尿路悪性腫瘍による場合もあります。
手術後でも同様ですが、時間が経過してからの肉眼的血尿は注意が必要です。
もちろんその頻度は低いですが、時間が経過してから肉眼的血尿を認めた場合は、念のため泌尿器を受診して検査をお受けになることが安全です。